目次
第1章 はじめに――断熱は「健康・快適・光熱費」の土台
「おしゃれ」や「間取り」の良し悪しは、冬に寒く夏に暑い家では不可能です。断熱は室温の安定、結露リスクの低減、冷暖房費の抑制という三つの成果を同時に生みます。本コラムでは、佐世保市(長崎県)を前提に、断熱等級の考え方、必要水準、そして簡易モデルによる室温・光熱費シミュレーションを提示します。地域区分や基準は一次情報に基づきます。
地域区分の詳細: https://www.nilim.go.jp/lab/bcg/siryou/tnn/tnn0973pdf/ks097316.pdf?utm
第2章 佐世保市の前提(地域区分と気候)
省エネ基準の地域区分で、佐世保市は7地域(温暖地)に区分されます。温暖地でも夏の湿気・西日の熱負荷は高く、冬は放射冷却で朝晩が冷えます。したがって、断熱+日射遮蔽+気密+換気をセットで考えるのが基本です。
第3章 断熱等級の基礎知識(4〜7)
断熱性能は「断熱等性能等級」で示され、2025年度から等級4の適合(省エネ基準)が新築で原則義務化、2030年頃を目途に等級5(ZEH水準)の普及が政策的に想定されています。目安のUA値(外皮平均熱貫流率)は、温暖地(5〜7地域)で等級5=0.60以下、等級6=0.46以下、等級7=0.26以下。数字が小さいほど外皮の熱の出入りが少なくなります
国土交通省: https://www.mlit.go.jp/shoene-jutaku/
第4章 室温の“底上げ”を示す指標(HEAT20)
民間基準HEAT20は、G1/G2/G3の三段階で冬期の最低室温(非暖房時の目安)を定義し、G2では概ね13℃、G3では概ね15℃以上を確保する設計目標(1・2地域を除く)を示します。数値は「快適」「健康」のしきい値を意識した目標で、“寒くない”日常をつくるための実務的な指針です。https://www.heat20.jp/
第5章 モデルの前提条件(佐世保版)

建物条件(標準的な木造2階・総2階想定)
- 延床:100㎡(約30坪)/戸建・4人家族
- 7地域(佐世保市)・南向き敷地、道路側は南または東
- 開口率:外皮の約15%(掃き出し×2、腰窓×数カ所)
- 換気:第1種または第3種(本試算は熱交換なしで評価)
- 空調:高効率ルームエアコン(通年平均COP=3.3相当で簡易計算)
- 運用:冷房6〜9月・暖房12〜3月中心、在宅時間の“間欠運転”を想定
- 電気単価:26/31/36円/kWhの3ケースで感度を確認(変動が大きいため範囲表示。近年の賦課金・燃調の影響を考慮して幅を持たせます)
重要:以下は簡易モデルの概算です。方位・間取り・スキンバランス・日射取得/遮蔽・内部発熱等で結果は前後します。
第6章 簡易シミュレーション(年間の空調電力量と光熱費)
ケースA:等級4(省エネ基準相当・比較用)
- 年間空調電力量の目安:2,400kWh
- 年間電気代:62,400〜86,400円(26〜36円/kWh)
ケースB:等級5(ZEH水準)
- 年間空調電力量の目安:2,000kWh(A比▲約17%)
- 年間電気代:52,000〜72,000円
ケースC:等級6(HEAT20G2相当)
- 年間空調電力量の目安:1,600kWh(A比▲約33%)
- 年間電気代:41,600〜57,600円
ケースD:等級7(HEAT20G3相当)
- 年間空調電力量の目安:1,300kWh(A比▲約46%)
- 年間電気代:33,800〜46,800円
読み方
- 等級5→6で年間約400kWhの削減(31円/kWhなら約12,400円/年)。
- 等級6→7ではさらに約300kWh(同約9,300円/年)。
- 断熱を上げるほど夏のピーク負荷も下がり、エアコンの同時運転台数や立ち上がり時間が短くなります。
実務では、断熱強化で空調容量や台数の最適化が進み、設備初期費が下がる場合もあります。
第7章 室温のイメージ(冬の朝)
前夜22時に暖房OFF、翌朝6時の無暖房時最低室温の目安は、
- 等級5(G1〜相当):10〜13℃台
- 等級6(G2相当):概ね13℃前後
- 等級7(G3相当):概ね15℃以上
とするのが実務の目安。「最低でも13℃」か、「15℃以上」をとるかが、冬の朝の体感差です。
第8章 “どこまで上げるか”の判断軸(佐世保版)
- 性能の推奨ライン:7地域の佐世保なら、等級6(G2相当)を基本推奨。冬の底冷えと夏の湿気に効き、健康・快適・光熱費のバランスが良い。
- 等級7の意味:さらに冬の朝の底上げとピーク負荷の圧縮。将来の再エネ拡大や電気料金の変動に対する耐性が増します。
- 費用対効果:外皮の弱点(窓・気密・日射遮蔽)を先に。壁天井の厚みを増す前に、窓の断熱等級と方位配置、西日の遮蔽、C値の確保を優先すると、費用対効果が高い。
第9章 計画の勘所(外皮・気密・日射・換気)
- 窓:南は取得と遮蔽の両立(庇・外付けブラインド)。西は面積を抑え、遮蔽前提で設計。ガラスはLow-E複層以上を基本に。
- 気密(C値):0.5以下を目標に。漏気は断熱の効きを損ないます。
- 日射:夏は遮る、冬は取り込む。季節で変えられるアウターシェードが有効。
- 換気:24時間換気は前提。7地域では熱交換型の導入検討で、冬の乾燥・夏の負荷を軽減。
- 設備最適化:断熱強化に合わせ、エアコンの能力見直しと設置台数の最適化を。
第10章 よくある疑問(Q&A)
Q1:等級4でも建てられるの?
A:制度上は2025年度から等級4適合が義務。ただし、快適性・光熱費の観点では等級5以上を検討する価値が高いです。
国土交通省:https://www.mlit.go.jp/common/001627103.pdf?utm
Q2:ZEH水準(等級5)とHEAT20のG2/G3は何が違う?
A:外苑の違いがあります。ZEHは一次エネルギーの収支まで含む概念、HEAT20は体感・室温目標を含む外皮性能の考えがベース。等級6≒G2、等級7≒G3と理解すると整理しやすいです。
Q3:佐世保で“最低ライン”は?
A:等級6(G2)を推奨。日射遮蔽・気密・窓の選定をセットで最適化し、等級7はご予算と価値観(冬朝の体感・将来電気代の変動耐性)で判断を。
第11章 まとめ
- 地域前提:佐世保市は7地域。温暖地でも冬朝の底冷えと夏の湿気が課題。
- 性能目標:等級5(0.60)→等級6(0.46)→等級7(0.26)の順で室温の底上げと光熱費の低減が見込めます。
- 実務推奨:まず窓・気密・日射遮蔽。次に外皮厚み。等級6を標準、等級7は投資回収と体感価値で判断。
- 設計と運用の両輪で、健康・快適・省エネを同時に達成しましょう。
参考(基準・地域区分の一次/準一次情報)
- HEAT20(G1/G2/G3の室温目標・概念):冬期最低室温G2=概ね13℃、G3=概ね15℃以上。
- 断熱等級のUA値目安(5〜7地域):等級5=0.60、等級6=0.46、等級7=0.26(概念整理/仕様例)。
- 地域区分:佐世保市は7地域。
- 2025年度の省エネ基準適合義務化(住宅):制度改正資料。
- 電気料金の変動要素(参考・感度前提):賦課金・燃料費調整の動向。
※本コラムのシミュレーションは概算例です。実計算(負荷計算・一次エネ算定・燃調/賦課の反映)は、設計図面と仕様確定後に行うのが原則です。
第12章 投資回収の考え方 -断熱強化の“もとは取れる?”
断熱は“費用対効果+体感価値”で評価します。たとえば本稿の簡易モデルでは、等級5→6で年間約400kWh、等級6→7で約300kWhの削減。電気単価31円/kWhとすると、それぞれ約12,400円/約9,300円の節約です。差額工事費が仮に40万円なら、単純回収は約32年(12,400円/年の場合)。ただし、冬の朝の最低室温の底上げ、結露抑制、設備の小能力化(台数最適化)等の“非エネルギー便益”も大きい。まず窓・気密・日射遮蔽の三点を優先し、残りを外皮厚みで積み増すのが、佐世保では現実解です。
また、太陽光発電を併用する場合は、自家消費の比率が上がるほど、削減kWhの価値は上振れします。反対に、電力単価が26円/kWhまで下がる年は回収年数が伸びます。したがって“省エネだけで回収”より、健康・快適・レジリエンスを含めた総合便益で判断するのが現実的です。見積では、窓仕様・気密目標・を明細化し、代替案(等級6/等級7)を並べて、家族の価値観と予算で決めましょう。最終判断は、将来の光熱費と健康リスク回避まで含めた“トータルコスト”で。
ご自身で全てを検討するのは困難かと思います。
永大ハウスが、ご一緒にシミュレーションさせていただきます。